情緒的側面

心の痛みのケア

愛情を注いでいる自分の車が、故障どころか事故により、見る影もない無残な状態に変貌することは忍びないものです。自分が購入した車はその人の財産のひとつです。ですから修理すること自体が憂うつで不愉快極まりないことです。しかし、復元するための修理費用が、その時の車の価値よりも上回る「全損」以外ならば保険を使用したりして、元に戻すのが通例です。

つまり、自動車の損傷だけを直せば良いのでなく、修理完成後には、お客さまの心の痛みを解消してさし上げ、笑顔と「ありがとう」の言葉を頂いてお引き渡しすることが必要不可欠なのです。

修理を受け入れる側の人間は、そこに集中特化することが自分自身の人間磨きにもつながり、それができて初めて一人前です。

話が少し飛躍しますが、「グリーフケア」という言葉があります。これは、子ども・配偶者・親・友人などの愛する人を亡くし、計り知れない悲嘆(グリーフ)に暮れている人に対するサポートのことです。悲嘆のプロセス(グリーフ・プロセス))には12段階あり、立ち直るまでには次の順序を踏むと言われています。

1.精神的打撃と麻痺状態
「何を言っているの? 冗談でしょう?」

2.否認
「何かの間違いだ、悪い夢だ」
3.パニック
「嘘だと言ってくれ~!!」事実を見てどうしていいか、何をしたらいいのかわからない。

4.怒りと戸惑い
「どうして、なぜ? 私が何か悪いことをしましたか?」

5.敵意と恨み
「なぜ自分が、こんな思いをしなければいけないのか?」

6.罪悪感
「あの時、こうしていれば…」と自分を責める。

7.幻想
現実がなかったように思い込んで振舞ってしまう。
   
8.孤独感
気持ちが落ち込み、孤独にさいなまれる。

9.精神的混乱と無関心
「どうでもいいや」何もしたくなくなる。

10.あきらめ、受容
「いつまでもくよくよしたって仕方がない」現実を受け止めることができる。

11.新しい希望、ユーモアと笑いの再発見
罪悪感でできなかった笑いを取り戻すことができる。

12.立ち直りの段階、新しい自己の誕生
現実を受容し、新たに前へ進もうとする。

愛車の事故をこれにたとえても間違いではないでしょう。同じプロセスを踏んでいるような気がします。余談が少々長くなりましたが、お客様への慎重な対応が必要な理由がここにあります。

板金塗装修理見積りとは

見積りの役割

点検・車検やその他の自動車整備とは異なり、板金塗装修理の内容や過程は一般の人々にはイメージが湧きにくいと推測します。だからこそ説明責任が増す分野です。

仕事を請け負う場合には、金額と完成後の引渡し日時はもちろん修理内容の詳細を説明して、お客さまの承諾を得ることが社会での習わしです。

とりわけ板金塗装修理(以降事故修理と表記)のケースでは、損傷がどこまで波及しているかは素人の方にはわかりません。分からないから不安が募ります。だからこそ、修理計画の説明書である見積書を提示して承諾を得なければ、スタートラインには立てません。見積書は、事故車を修理して復元する技術的意見書です。どの部分を、どのような方法で、いくらで修理するかが明確であることが必要です。

見積りの重要性

事故修理受付時、お客さまの心理として、修理費用がどれくらいになるかは、大いに不安です。「概算でいいから」と見積り金額の即答を求められることもあります。しかし、「概算」として伝えた金額が、「見積り金額」としてお客さまに印象づけられ、思わぬ行き違いが生じるおそれがあります。言葉を選ぶのは勿論ですが、「概算だから」と軽く考えずに、可能な限り正確な見積りが瞬時にできる想像力と判断力が必要です。



見積書の作成

事故車の受付

お客さま立会いのもと、車両の損傷状態を確認します。車両の周囲を一巡し、今回の事故部分とそれ以外の損傷の有無を点検して、傷等があればお客さまにその部分の修理の要否をお聞きする、仕分けが重要です。

事故状況の把握

損傷箇所を見落とすと、修理の手順や方法に作業過程での軌道修正が発生して無駄が生まれるばかりでなく、完全に復元されないことになりかねません。
ここで正しい診断のために登場するのが「問診」です。お客さまにお話をよく伺い、保険修理であれば、保険会社からも情報を収集して、該当箇所を明確にします。

問診のポイント

ここは勿論、5W2Hです。あらためて5W2Hとは、いつ・どこで・誰が・何に・なぜ・どのように・いくらで です。これによって、損傷範囲の確定と見落としの防止、そして最適修理方法の判断材料とするのです。

修理方法の判断

事故車修理の4原則

事故車修理の基本は、自動車の品質と性能を事故前の状態に復元することです。修理の品質を確保することは、次の4原則のどれか一つが欠けても成り立ちません。

1.美観の回復 
見た目、外観の仕上がりです。お客さまが修理完成車を受け取られるとき、最初に気にされる項目です。特に塗装の仕上がりや建てつけに目が行きます。

2.安全性の確保 
走行性能のことです。
ホイールアライメントに影響を及ぼすボディ骨格系や、操縦安定性に直結する足回り関係の損傷を十分に考慮した修理方法をとります。

3.強度と耐久性の確保
溶接、防錆品質が該当します。耐久性は、車両寿命の長期化に伴って、重要視される項目です。特にパネル内面、パネル接合部、ボディ下部などの箇所の防錆品質が確保できる修理方法をとります。

4.性能の回復
壊れた機能部品を正常な状態に回復させる修理方法をとります。

板金か交換か

事故車の修理作業は、「板金修正」と「交換」に大別されます。これについての意思決定を見積り時点で下すのです。損傷部が修正か交換かの考え方は以下の通りです。

1.修正作業
損傷面積が部品の50%以下であり、交換よりも修正した方が早くて安いと判断できる場合は【板金修正】。

2.修正限度
ボルトオン部品:修正金額が部品代の70%以上の場合
溶接結合部品:修正金額が部品代+交換工賃の70%程度の金額の場合
上記2点はいずれも【交換】になります。

塗装方式の選定

塗装方式とその金額は、塗料の種類 (ソリッド・メタリック・パール・耐スリ傷等の種別)による作業の難易度と塗装面積によって変わってきます。

見積書の発行

パソコンで事故車見積ソフトを使用して作成します。修理内容と方法、部品代、工賃等を、誰が見てもわかりやすいように、順序立てて表現します。出来上がった見積書、これは作品であるべきなのです。

まとめ

駆け足の説明でしたので、事故修理見積技術とその流れについて、すべてを網羅できている訳ではありません。しかし、目に見える損傷した車両を直すだけではことが足りない、目に見えないお客さまの心理への気くばりをちりばめての行動があってこそ、初めて円滑な流れとなることは、ご理解頂けたかと思います。イマジネーションとクリエイション、想像と創造、この二つソウゾウが車に対しても人に対しても必要不可欠です。